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仕込みタンク 酒米
            
 
酒造工程
  
  

米洗い
 
 米洗は第二の精米と言われるように、白米の糠を洗い流し適度の水分を吸わせる
ために大事な工程です。当社では55%精白の特別本醸造(総米1000kg)より上のクラスは全て白米を10kgずつトーヨーの米洗い機で洗って、水分を調節するため時間を測りながら漬けていきます。(限定吸水)特に大吟醸では10kgずつ洗米用の袋にいれて、両端を二人の人間がつかんで揺すりながら洗う手洗い方式です。トーヨーの米洗い機(水圧式洗米機)はもともと給食などの飯米を大量に洗うための機械だそうですが構造が簡単で作業も能率がよく、2台在れば500kgくらいは、二人で1時間半くらいで洗います。糠もよく取れて大変いい機械です。大吟醸では手洗いにこだわっています。トーヨーの機械でも十分かと思われますが米洗い後浸漬のため、水に漬けた米をさわってみると、手洗いのほうが、表面がカサカサした感じで表面の糠が完全に落ちた感じがします。このへんはどちらにするか微妙なところで、いい酒を造ろうと思えばこだわりや、思い入れで方法を選択しています。

大吟の洗米 洗米後
  大吟醸の洗米、二人一組になり丁寧に米を壊さないように行う。
洗米後水切り 水圧式洗米機
米洗い後 水圧式洗米機
 

甑による蒸し米
蒸米堀2 蒸米堀1
スコップでの蒸米堀
         
      −蒸し−
 適切な蒸米を作る事が、その後の麹つくりが上手くいくかどうかのカギになりますし、モロミでの米の溶け具合を決める事になり、ようするに酒造りが成功するか失敗するかの大きな要素になります。
 よい蒸米は外硬内軟で弾力があると表現されていますが、こういう蒸米を作るには、蒸気が充分に加熱されて乾燥していることが条件です。その為には和釜をバーナーで加熱するやり方が優れているといいます。現在ではボイラーで発生させた蒸気を和釜の中に吹き込んで蒸気を作り蒸すやり方が、主流になっていますが、このやり方は蒸気温度が低く蒸し米が軟らかくなりやすいのが欠点です。
 私の蔵もこの蒸気吹き込み式の蒸方で蒸しが軟らかめになりやすいので、いろいろ研究中です。
 まず改良したのが、甑の下にプレートヒーターといって蒸気を過熱して乾燥蒸気をつくる仕掛けを設置した事で、これによって、蒸しの蒸気温度をいろいろ変える事ができます。このプレートの加熱温度を変える事により蒸米の硬さの調節をするのですがまだ理想の蒸米といえる状態ではありません。蒸した米の重さを測り蒸しの間にどれだけ水分を吸ったかを判断するのですが、全般にこの値が多くなりがちです。いまこの点を改良するの方法を思案しています。蒸しには蒸気の温度、量の条件のほか甑の形状も影響が大きいです。例えば釜の中で発生した蒸気は甑の下の数センチの穴から甑の中に流れこみ、駒と呼ばれるおわんを逆さにしたような部品に当たって甑の中に散っていきますが、この形状はいろいろなバリエーションがありそれにより蒸米の仕上がりが変わってきます。米を蒸すだけで実にいろいろの条件の組み合わせがあり迷いだすと解らなくなってしまいます。蒸しだけの問題ではないですがこの条件の組み合わせの多さが酒造りの難しいところです。とにかく蒸しが酒造りの大事な工程であるので、もう少しお金がかかっても改良したいと思っています。

蒸し米放冷1

 放冷中

−蒸米の放冷とさらし−

蒸し上がった米はスコップで甑から掘り出して麹にする場合はとりあえず40度cくらいまで冷まして麹室に運びます。仕込みの掛米にする場合は20度cから6度cくらいまで冷却します。
 昔は“むしろ”を何枚も床、あるいは地面に広げてその上に“まにら”と呼ばれる麻の布をさらに広げこの上に蒸したアツアツの米を広げて人間が手でひっくり返して冷ましました。その為に早朝の低い気温と、蒸米もたくさんあるので多くの人手が必要でした。現在では昭和30年代頃出現した蒸米放冷機というベルトコンベアの上に蒸米を薄く延ばしてファンの空気で強制的に冷ます機械によりこの工程はずっと楽になっています。さらに冷めた蒸米はエアシュウターという直径20センチくらいの合成樹脂の管の中を風圧により吹き飛ばされて仕込みタンクまでいくので仕込みの仕事は昔と較べればかなり楽になっています。
 私の蔵では65%の本醸造は上に書いたような方法で仕込んでいますが、55%の特別本醸造以上の仕込みでは掛米の溶けを抑えるためにすぐには仕込みません。精白歩合の高い吟醸系の酒の仕込みでは米が溶けやすいので放冷機からでてきた米を“まにら”に包んで30分から、大吟醸の場合は7時間くらい置いておきます。こうすると蒸しで軟らかくなったデンプンがまた溶けにくい状態に戻り仕込みの後モロミでゆっくりとけます。味のきれいで日本酒度のキレた酒を目指すには長時間おいておくわけですが、何時間おいておくか、そのさじ加減がモロミ経過を決める大事なポイントになります。あまり長くおきすぎると味の少ないきれいな酒になりすぎます。その上できる酒の量が少なくなって非経済的になります。モロミでの米の溶け具合には外に麹の強さも絡んでくるので、思ったとうりのモロミ経過に持っていくには二つの要素について的確に評価しなくてはなりません。

 

麹造り
 
 麹は日本酒の造りで味を左右する大事な要素である事は言うまでもありません。ただし良い麹とはどういう麹なのかは私のような新米の杜氏には難しい問題です。一般には吟醸に使う「ツキハゼ麹」とは香りがよく、色が白く、麹菌が生えたところと生えていないところの境がくっきりとしていて、菌糸が米の内部まで深く入り込んで(ハゼ込んで)いる麹という事になっています。また造っている時の温度経過が大事でその良し悪しで香りを出すために必要なブドウ糖を供給するグルコアミラーゼという酵素の力の強弱や、過剰にあると雑味の原因になるアミノ酸を造るプロテアーゼ系の酵素の強弱が左右されます。分光光度計
 しかし、出来上がった麹を見ても実際のところその麹の実力は初心者にはなかなか判別ができません。そこで一年目の造りでは島根県の堀江先生の開発された「消化法」という手法で麹を分析してみました。この方法は必要な設備がさほど高額でなく、手間もそんなに煩雑ではありません。そして麹の全体としての力の強さを「総合力価」という値で数値化して表します。その数値により、ハゼのまわりかた、仕込んだ酒の味の出方、酵素の強さ等のけんとうがつき、参考になります。二年目からは吟醸麹の良し悪しを判断するための重要な要素である糖化酵素の強さを知りたいと思い、キッコーマンの酵素力価分析キットを使う事にしました。こちらは分光光度計という50万円程の機械が必要で私の蔵のような零細企業では贅沢ですが、導入しました。ちなみに静岡県の酒造会社は技術向上に熱心な蔵が多く30社の内7社ほどが購入したと聞いています。こちらはグルコアミラーゼとαアミラーゼというデンプンを分解する酵素の力を測る事ができます。分析に要する時間は2点で準備から後片付けまで1時間くらいです。ただし酵素の抽出に数時間要します。少ない人数で回している蔵ではこの余分の1時間の仕事をするのが大変です。熟練の杜氏さんなら必要ない事かもしれませんが、駆け出しの杜氏としては麹作の技を早収得するには有効な手段と考え、今年は仕込み本数で1
0本くらいの酒母、添え、仲、留、の麹について全部測ってみました。

もやし振り3

     種麹(もやし)の散布
もやし振り2


 
 良い吟醸麹の条件の一つとして、デンプンをデキストリンに分解する液化酵素であるαアミラーゼは余り強くなく
(500単位以下)デキストリンをブドウ糖にまで分解するグルコアミラーゼはできるだけ強く170単位くらい)あるという事があります。この条件を満たすためにはいわゆるツキハゼ麹にする必要かあるわけです。 ツキハゼ麹を造るためには種麹の散布量を減らしてやればいいのですが、ただ減らしただけでは見た目はツキハゼ麹なのですが、実際に酵素力価を測ってみるとαアミラーゼ力価は600から700単位あってもグルコアミラーゼは150単位程度の麹になっています。理想の吟醸麹ではグルコアミラーゼ力価をαアミラーゼ価で割った値(G/A比という)が0.34くらいになります。上記のような見た目だけツキハゼになっているような麹ではG/A比は0.24程度にしかなりません。ニ年目の造りではいろいろ工夫してみてもG/A費が最高で0.28くらいにしかなりませんでした。三年目の今年はG/A比が0.34の麹が造れるようになりました。結局のところG/A比の高い麹にするには種麹の散布量を減らすのはもちろんですが、室に引き込んだ麹を薄く広げて乾かして、室の温度を37度くらいにしてあっても、仲仕事まで18時間、場合によっては24時間もかかるような長時間の麹造りにするしかないようです。仕舞仕事以後の温度については高めの43度くらいと低めの40度近辺の比較をしてみましたが、G/A比の差はないようです。しかし力価の絶対値はグルコアミラーゼもαアミラーゼも温度が低めのほうが高くなりました。
 
グルコアミラーゼ力価を高くするにはこの“造り方”が最大の要素ですが、麹菌その物の性質としてグルコアミラーもやし振り1ゼが非常に高くなる菌株が製品として販売されています。この麹菌を使うと麹造りの技術が未熟でもかなりG/A比の高い麹ができます。私も大吟醸の仕込みには使ってみていますが、造り二年目の技術の未熟な時でもG/A比が0.34くらいになりました。今年の吟醸麹は0.45から0.50という値になりました。欠点はこの麹で造った酒の粕が時間がたつと茶色に変色することです。この着色はりんごの切り口が空気にふれると茶色になるのと同じ反応で風味も変化はないのですが、見た目が悪く酒粕の商品価値を低くしてしまいます。このようG/A比の極端に高い麹を使う効果はあるのか、G/A比で0.34くらいあれば十分いい吟醸酒になるのか、そのへんは今後の研究課題です。
 

  いずれにせよ酵素の力価を測る事によって試行錯誤して造った麹の良否が的確に判断でき、比較的短期間で麹造りの好適条件を見つける事ができたと思います。
 酒母、添え、仲、留の麹の力価を全部測ることの利点にはもう一つ、一本の仕込みに存在する麹の力の総量を把握できる事があります。
麹の酵素は蒸し米のデンプンを分解し酵母の食料であるブドウ糖を供給したり、蛋白質を分解して米の溶解をたすけたり、酵母の栄養であり酒の味の要素であるアミノ酸を供給する他、酵母が必要とするビタミン類等も供給しています。それでは麹の働きが強くなるように麹菌をたくさん生やしてやればいいかというと、そうではありません。前に書いたようにグルコアミラーゼはできるだけ強くしたいのですが、αアミラーゼやプロテアーゼ系の酵素は多すぎると酒の味を重くするので適度に、普通は少なめになるのが望ましいです。また麹菌がたくさん生えると、麹菌の菌体自体を構成している脂肪酸が比例して増加し、この脂肪酸は酒の香りの生成を妨害します。ですから麹造りで麹菌は適度に生えている事が大事で、多すぎても少なすぎてもこまります。吟醸酒を造る場合はきれいな味と香りを出すために、麹菌の生える量はできるだけ少なくしたいのですが、あまり少ないと酒を仕込んでから酵母に供給される、ブドウ糖や栄養分が少なすぎて最悪の場合は酵母の増殖不足で腐造します。なんとか酒になっても、味は薄く香りも出ず、酒粕ばかり多くて非常に経済性の悪い酒になってしまいます。麹菌をたくさん生やせば安全醸造になり経済性の良い酒になりますが、吟醸酒としては香りが少なく、味の多すぎる酒になってしまいます。そこで目的とする酒質によって麹の強さ(麹菌の生える量)をコントロールすることが杜氏の重要な技の一つという事になります。熟練した杜氏さんは体得した経験でそこを判断していると思いますが、そういう杜氏さんでもよい吟醸を造ろうとしてハゼ回りをぎりぎりまで少なくした吟醸麹を使った結果、発酵が順調に進まなかったりする事がたまにあるようです。酒母、添え、仲、留の酵素力価を測ってあると一本の仕込み全体の麹の強さを判断できます。具体的には酵素力価を測るといってもグルコアミラーゼとαアミラーゼしか測っていませんのでαアミラーゼの数値から麹のはぜ回りと蒸米の溶け具合を判断しています。仲までの酵素力価値の合計が低ければ、留麹は通常より出麹時間を遅らせて強い麹にするとか、
留めまでの麹が全体として強めにできた時は留麹の酵素力価を測定したうえで、その使用量を少し減らしたりしています。この方法は島根県の堀江先生の勉強会で教えてもらいました。堀江先生の方法は酵素力価ではなく消化法による総合力価の値を判断の基準にしていますが、糖化酵素の力価でも大変参考になると思います。しかし酵素力価は麹の一面をとらえているだけですので、これだけでは麹つくりはもちろん完全にはわかりません。しかし駆け出し杜氏とってはたいへんありがたい指標です。


酒母(山廃仕込みについて)


 - 山廃酒母とは -

 全国的に、山廃酒母や生もとで造った酒が少しずつ増えているようです。酒造りの最初の工程として、酵母を増殖させる酒母(もと)は現在ほとんど速醸酒母といって仕込みの時乳酸を添加することにより、液を酸性にして雑菌の繁殖を抑えておき、その間に同じく添加した酵母を増殖させます。

 この方法は、安全で操作が比較的簡単で、確実に目的とする酵母を繁殖させることができ、出来上がった酒は、クセがなくすっきりした風味であることから、現在の酒造りでは一番広く採用されているほか、吟醸酒の製造に適していると言えます。


 一方、生もと系の酒母では、仕込み時に乳酸の添加はおこなわず、自然に生えてくる乳酸菌の造る乳酸で酸性を作り出し、その後酵母を添加します。速醸酒母が2週間で出来上がるのにたいし1ヶ月も時間がかかり操作も大変になります。できた酒は、深い酸味に富み、味に幅があり、秋あがりすると言われています。山廃酒母は、生もと酒母製造で行われる「山おろし」という米をすり潰す操作を廃し簡略化した方法です。

山廃酒母 冷蔵庫による山廃酒母仕込み


 - 山廃酒母に挑戦する理由 -

 酒造りの教科書には、現在はあまり使われなくなっているにもかかわらず、山廃酒母の製造方法の解説が詳しく載っているのが常です。

 そして硝酸還元菌により生じた亜硝酸により、野生酵母の増殖を抑えながら、次に生えてくる乳酸菌で酸性の環境を作り出しその後
目的とする酵母を増殖させるこの技法が、近代化学や微生物学のない時代に、先人たちによって生み出された秀逸な技術であるとの解説が書いてあります。それらを読むと酒造りに携わる者として、ぜひ一度やってみたくなります。

 また、蔵元として酒造りに関わるようになって以来、品質向上のため、全ての商品について精白歩合を上げ、発酵温度を低くし、製品を冷蔵庫で壜貯蔵にするなど、近代的な吟醸酒造りの基本に従って努力をしてきたつもりですが、普通の純米酒や本醸造酒のように強い吟醸香を期待できない酒については、別の切り口でおいしさを追求できないかという思いがありました。


 自然な日本酒といえば、まず醸造アルコールを添加しない純米酒という事になります。現代の純米酒造りのひとつの方向性として、精米歩合を良くして速醸酒母で仕込み低温発酵させさらに付加価値として吟醸香と、比較的軽い味わいの酒質を実現する道があります。よく出来た純米酒なら活性炭を使用しなくてもいいのですが、基本的に貯蔵、流通を低温にする事になります。純米吟醸酒ならこれでいいと思うのですが、精米歩合がそれほど良くない純米酒の場合、吟醸香という付加価値を十分に付けられません。さらに純米にする事によりエキス分が多目になり着色や老香が付き易くなります。それを防ぐ為に活性炭を用いると味の面で個性が乏しく、本醸造とあまり差別化できないように感じます。

 その点、生もとや山廃酒母で造った純米酒は速醸酒母の純米酒に比べ味に深みがある酒になります。少しクセもありますが、貯蔵して老ねた場合でも老香に風格があり活性炭を無使用にして多少着色が進んでも美味しく飲めます。


 - 山廃酒母の仕込み -

 実際の山廃酒母造りですが、2002年度の造りで練習のために酒造りの終わった5月に一本仕込んでみました。この酒母は試作している米焼酎のもろみに使ってみましたが、発酵は良好でした。

 この時の経験から、5度〜8度くらいが適温とされる山廃酒母の仕込み温度ですが、低すぎると米の溶けが悪くなる事。亜硝酸をしっかり効かそうと考えて、硝酸カリを添加しすぎると亜硝酸反応が強すぎていつまでも消えず、添加酵母の繁殖が遅れる事。また同じく乳酸菌の繁殖も抑えられて、酸がなかなか出てこないという経験をしました。今回は前回の経験を踏まえて仕込み温度、亜硝酸反応を調節してほぼ教科書にそった経過をたどる事ができました。


 仕込み後、数日たった酒母は、麹の酵素で米が溶けて生じる甘味と乳酸の酸味で甘酸っぱくておいしい味がします。山廃酒母では速醸酒母とくらべ、旨みとコクがあって特にこの時おいしく感じられます。



 - 山廃酒母を使った純米酒のモロミ -

 山廃酒母で育った酵母菌は、細胞膜を作っているリン脂質が速醸酒母と異なり、もろみの後半で高いアルコールに耐えてよく発酵するといいます。

 山廃酒母は、前半で硝酸還元菌や乳酸菌などを繁殖させるためか、表現が悪いですが少し腐敗したような臭いがします。この臭いと酵母のつくる芳香が混ざって、過熟して腐りかけた果物を思わせる香りがしています。この香りは、モロミになってからも少し感じられました。また搾った直後の酒にも、わずかですが感じられました。

 山廃独特のクセはタンク貯蔵時と壜詰め時に二回活性炭を使用してろ過すればほとんどなくなりますが、活性炭を使わず一回のみ壜火入れした酒では発酵で生じるその他の成分と共にほのかに残ります。活性炭と二回火入れでこの個性を消してしまうより、一回火入れと活性炭無使用で山廃独特の個性を適度に残したほうが美味しい酒になる様な気がします。