こだわりの酒造り

こだわりの酒造工程

洗米・浸漬工程

sakadukuri_ph01 米洗は第二の精米と言われるように、白米の糠を洗い流し適度の水分を吸わせるために大事な工程です。当社では60%精米(総米1000kg)より上のクラスは全て白米を10kgずつトーヨーの米洗い機で洗って、水分を調節するため時間を測りながら漬けていきます。(限定吸水)特に大吟醸では10kgずつ洗米用の袋にいれて、両端を二人の人間がつかんで揺すりながら洗う手洗い方式です。トーヨーの米洗い機(水圧式洗米機)はもともと給食などの飯米を大量に洗うための機械だそうですが構造が簡単で作業も能率がよく、2台在れば500kgくらいは、1人で1時間半くらいで洗います。糠もよく取れて大変いい機械です。大吟醸では手洗いにこだわっています。トーヨーの機械でも十分かと思われますが米洗い後浸漬のため、水に漬けた米をさわってみると、手洗いのほうが、表面がカサカサした感じで表面の糠が完全に落ちた感じがします。このへんはどちらにするか微妙なところで、いい酒を造ろうと思えばこだわりや、思い入れで方法を選択しています。


蒸し工程

sakadukuri_ph02 適切な蒸米を作る事が、その後の麹つくりが上手くいくかどうかのカギになりますし、モロミでの米の溶け具合を決める事になり、ようするに酒造りが成功するか失敗するかの大きな要素になります。  よい蒸米は外硬内軟で弾力があると表現されていますが、こういう蒸米を作るには、蒸気が充分に加熱されて乾燥していることが条件です。その為には和釜をバーナーで加熱するやり方が優れているといいます。

 現在ではボイラーで発生させた蒸気を和釜の中に吹き込んで蒸気を作り蒸すやり方が、主流になっていますが、このやり方は蒸気温度が低く蒸し米が軟らかくなりやすいのが欠点です。 そこで甑の下にプレートヒーターといって蒸気を過熱して乾燥蒸気をつくる仕掛けを設置しました。これによって、蒸しの蒸気温度をいろいろ変える事ができます。このプレートの加熱温度を変える事により蒸米の硬さの調節をすることができます。

 蒸しには蒸気の温度、量の条件のほか甑の形状も影響が大きいです。例えば釜の中で発生した蒸気は甑の下の数センチの穴から甑の中に流れこみ、駒と呼ばれるおわんを逆さにしたような部品に当たって甑の中に散っていきますが、この形状はいろいろなバリエーションがありそれにより蒸米の仕上がりが変わってきます。米を蒸すだけで実にいろいろの条件の組み合わせがあり迷いだすと解らなくなってしまいます。蒸しだけの問題ではないですがこの条件の組み合わせの多さが酒造りの難しいところです。


放冷工程

sakadukuri_ph06 蒸し上がった米はスコップで甑から掘り出して麹にする場合はとりあえず40度cくらいまで冷まして麹室に運びます。仕込みの掛米にする場合は20度cから6度cくらいまで冷却します。  昔は“むしろ”を何枚も床、あるいは地面に広げてその上に“まにら”と呼ばれる麻の布をさらに広げこの上に蒸したアツアツの米を広げて人間が手でひっくり返して冷ましました。その為に早朝の低い気温と、蒸米もたくさんあるので多くの人手が必要でした。

 現在では昭和30年代頃出現した蒸米放冷機というベルトコンベアの上に蒸米を薄く延ばしてファンの空気で強制的に冷ます機械によりこの工程はずっと楽になっています。さらに冷めた蒸米はエアシュウターという直径20センチくらいの合成樹脂の管の中を風圧により吹き飛ばされて仕込みタンクまでいくので仕込みの仕事は昔と較べればかなり楽になっています。

 精白歩合の高い吟醸系の酒の仕込みでは米が溶けやすいので放冷機からでてきた米を“まにら”に包んで30分から、大吟醸の場合は7時間くらい置いておきます。こうすると蒸しで軟らかくなったデンプンがまた溶けにくい状態に戻り仕込みの後モロミでゆっくりとけます。味のきれいで日本酒度のキレた酒を目指すには長時間おいておくわけですが、何時間おいておくか、そのさじ加減がモロミ経過を決める大事なポイントになります。あまり長くおきすぎると味の少ないきれいな酒になりすぎます。その上できる酒の量が少なくなって非経済的になります。モロミでの米の溶け具合には外に麹の強さも絡んでくるので、思ったとうりのモロミ経過に持っていくには二つの要素について的確に評価しなくてはなりません。


製麹工程

sakadukuri_ph03 麹は日本酒の造りで味を左右する大事な要素です。ただし良い麹とはどういう麹なのかは難しい問題です。一般には吟醸に使う「ツキハゼ麹」とは香りがよく、色が白く、麹菌が生えたところと生えていないところの境がくっきりとしていて、菌糸が米の内部まで深く入り込んで(ハゼ込んで)いる麹という事になっています。また造っている時の温度経過が大事でその良し悪しで香りを出すために必要なブドウ糖を供給するグルコアミラーゼという酵素の力の強弱や、過剰にあると雑味の原因になるアミノ酸を造るプロテアーゼ系の酵素の強弱が左右されます。

 しかし、出来上がった麹を見ても実際のところその麹の実力はなかなか判別ができません。そこで最初の頃は島根県の堀江先生の開発された「消化法」という手法で麹を分析してみました。この方法は必要な設備がさほど高額でなく、手間もそんなに煩雑ではありません。そして麹の全体としての力の強さを「総合力価」という値で数値化して表します。その数値により、ハゼのまわりかた、仕込んだ酒の味の出方、酵素の強さ等のけんとうがつき、参考になります。

 その後はキッコーマンの酵素力価分析キットを使う事にしました。こちらは分光光度計という機械が必要です。ちなみに静岡県の酒造会社は技術向上に熱心な蔵が多く30社の内7社ほどが購入したと聞いています。こちらはグルコアミラーゼとαアミラーゼというデンプンを分解する酵素の力を測る事ができます。分析に要する時間は2点で準備から後片付けまで1時間くらいです。ただし酵素の抽出に数時間要します。少ない人数で回している蔵ではこの余分の1時間の仕事をするのが大変です。熟練の杜氏さんなら必要ない事かもしれませんが、客観的に麹を評価するには有効な手段と考え吟醸の麹ではできるだけ測定するようにしています。

 良い吟醸麹の条件の一つとして、デンプンをデキストリンに分解する液化酵素であるαアミラーゼは余り強くなく(500単位以下)デキストリンをブドウ糖にまで分解するグルコアミラーゼはできるだけ強く(170単位くらい)あるという事があります。この条件を満たすためにはいわゆるツキハゼ麹にする必要かあるわけです。 ツキハゼ麹を造るためには種麹の散布量を減らしてやればいいのですが、ただ減らしただけでは見た目はツキハゼ麹なのですが、実際に酵素力価を測ってみるとαアミラーゼ力価は600から700単位あってもグルコアミラーゼは150単位程度の麹になっています。理想の吟醸麹ではグルコアミラーゼ力価をαアミラーゼ価で割った値(G/A比という)が0.34くらいになります。上記のような見た目だけツキハゼになっているような麹ではG/A比は0.24程度にしかなりません。

 最初の頃ははいろいろ工夫してみてもG/A費が最高で0.28くらいにしかなりませんでした。その後G/A比が0.34の麹が造れるようになりました。結局のところG/A比の高い麹にするには種麹の散布量を減らすのはもちろんですが、室に引き込んだ麹を薄く広げて乾かして、室の温度を36度くらいにしてあっても、仲仕事まで10時間、場合によっては16時間もかかるような長時間の麹造りにするのが有効なようです。

 仕舞仕事以後の温度については高めの43度くらいと低めの40度近辺の比較をしてみましたが、G/A比の差はないようです。しかし力価の絶対値はグルコアミラーゼもαアミラーゼも温度が低めのほうが高くなりました。

 グルコアミラーゼ力価を高くするにはこの“造り方”が最大の要素ですが、麹菌その物の性質としてグルコアミラーゼが非常に高くなる菌株が製品として販売されています。この麹菌を使うと麹造りの技術が未熟でもかなりG/A比の高い麹ができます。私も大吟醸の仕込みに使った事がありますが、造り二年目の技術の未熟な時でもG/A比が0.45から0.50という値になりました。

 欠点はこの麹で造った酒の粕が時間がたつと茶色に変色することです。この着色はりんごの切り口が空気にふれると茶色になるのと同じ反応で風味も変化はないのですが、見た目が悪く酒粕の商品価値を低くしてしまいます。このようG/A比の極端に高い麹を使う効果はあるのか、G/A比で0.34くらいあれば十分いい吟醸酒になるのか、そのへんは今後の研究課題です。

 酒母、添え、仲、留の麹の力価を全部測ることの利点にはもう一つ、一本の仕込みに存在する麹の力の総量を把握できる事があります。麹の酵素は蒸し米のデンプンを分解し酵母の食料であるブドウ糖を供給したり、蛋白質を分解して米の溶解をたすけたり、酵母の栄養であり酒の味の要素であるアミノ酸を供給する他、酵母が必要とするビタミン類等も供給しています。

 それでは麹の働きが強くなるように麹菌をたくさん生やしてやればいいかというと、そうではありません。前に書いたようにグルコアミラーゼはできるだけ強くしたいのですが、αアミラーゼやプロテアーゼ系の酵素は多すぎると酒の味を重くするので適度に、普通は少なめになるのが望ましいです。また麹菌がたくさん生えると、麹菌の菌体自体を構成している脂肪酸が比例して増加し、この脂肪酸は酒の香りの生成を妨害します。

 ですから麹造りで麹菌は適度に生えている事が大事で、多すぎても少なすぎてもこまります。吟醸酒を造る場合はきれいな味と香りを出すために、麹菌の生える量はできるだけ少なくしたいのですが、あまり少ないと酒を仕込んでから酵母に供給される、ブドウ糖や栄養分が少なすぎて最悪の場合は酵母の増殖不足で腐造します。なんとか酒になっても、味は薄く香りも出ず、酒粕ばかり多くて非常に経済性の悪い酒になってしまいます。

 麹菌をたくさん生やせば安全醸造になり経済性の良い酒になりますが、吟醸酒としては香りが少なく、味の多すぎる酒になってしまいます。そこで目的とする酒質によって麹の強さ(麹菌の生える量)をコントロールすることが杜氏の重要な技の一つという事になります。熟練した杜氏さんは体得した経験でそこを判断していると思いますが、そういう杜氏さんでもよい吟醸を造ろうとしてハゼ回りをぎりぎりまで少なくした吟醸麹を使った結果、発酵が順調に進まなかったりする事がたまにあるようです。

 酒母、添え、仲、留の酵素力価を測ってあると一本の仕込み全体の麹の強さを判断できます。具体的には酵素力価を測るといってもグルコアミラーゼとαアミラーゼしか測っていませんのでαアミラーゼの数値から麹のはぜ回りと蒸米の溶け具合を判断しています。仲までの酵素力価値の合計が低ければ、留麹は通常より出麹時間を遅らせて強い麹にするとか、留めまでの麹が全体として強めにできた時は留麹の酵素力価を測定したうえで、その使用量を少し減らしたりしています。この方法は島根県の堀江先生の勉強会で教えてもらいました。

 堀江先生の方法は酵素力価ではなく消化法による総合力価の値を判断の基準にしていますが、糖化酵素の力価でも大変参考になると思います。しかし酵素力価は麹の一面をとらえているだけですので、これだけでは麹つくりはもちろん完全にはわかりません。


酒母・醪工程 ※酒母は「もと(漢字は酉へんに元)」ともいいます。

sakadukuri_ph04 酒造りは最初から大きな桶で行う訳でなく、先ずは小さなタンクで酵母を培養させる「酒母」造りから始めます。小さなタンクに麹米・水・蒸米・清酒用酵母を加え、酵母を大量に培養させますが、この時、余分な雑菌が入り込まないよう乳酸も一緒に加え、酸性下で培養を行います。この酒母を「速醸酒母」といいます。出来上がった酒母を大きなタンクに移し、三回に分けて麹米、掛け米、水を加え増やして行きますが、このことを三段仕込みといい、タンクの中身を醪(もろみ)といいます。1か月ほどの時間を掛けて醪を育ててから搾ったものがお酒となります。


生酛・山廃酒母について

sakadukuri_ph05 酒母に乳酸を加えて酸性にして雑菌を抑える「速醸酒母」の方法は明治時代後期に純度の高い乳酸が入手できるようになって考案された方法です。それより以前は乳酸を加えるかわりに自然に乳酸菌が繁殖して乳酸を蓄積するように誘導して酒を造りました。この方法を「生酛」生酛の作業を簡略したのが「山廃」酒母です。