ごあいさつ

私たちの目指す酒造り

 日本の長い稲作と食文化の歴史と共に歩んできた清酒は「日本人が大昔から育て上げてきた一大芸術作品である」(坂口謹一郎著 日本の酒)と言われます。その中にはうまい酒を生み出すための先人の知恵と工夫が凝縮されており、米と水、麹菌、酵母、乳酸菌などの人知を超えた自然の働きによって醸しだされる深い味わいの可能性が宿っているに違いありません。私たちは米から自然の働きによって醸しだされるその深い味わいを実現した酒を造りたいと思います。その手段として私たちが大事にしているのが「生酛・山廃」といわれる自然の微生物の働きを使った伝統的な醸造方法と「熟成」の工程です。

 消費者離れが進んでしまった日本酒をもう一度お客様においしいと納得して頂くために、現在の多くは「吟醸造り」に力を入れています。吟醸造りは高精白した原料米と特別に手をかけて造られる吟醸麹を使って、選抜を重ねた吟醸酵母による低温発酵により吟醸香といわれる果実様の香りを穀物である米から生み出す日本酒の芸術品といわれる酒造りの方法です。私たちも吟醸造りには特別の情熱をもって取り組んでいます。

  しかしながら、吟醸酒が日本酒の一つの理想を体現した酒である事は確かですが、現代の吟醸酒の一部は香りの華やかさに重きをおきすぎて、食事との相性が悪く飲みあきしやすいという欠点があります。飲やすさを優先して酸味を抑え甘味を多くすべしという思想で造られた酒は飲み屋で一杯やる分には良いお酒です。一方で家でじっくり飲まれることが多い純米酒や本醸造については、香り重視で、低酸志向で造ろうという吟醸酒志向ではなく、別の思想、理屈、技術を持って酒造りを行う必要があります。

 私たちは吟醸酒とは異なる思想で純米酒の味わいの可能性を探求したいと考えています。原料米を磨かない酒造りでは雑味や酸味が多くなりますが、生酛・山廃造りと組み合わせる事により野趣に富んだ複雑な味わいが生まれます。またこのような酒は熟成により味わいが深まり、普段の生活の中で楽しんで頂く酒として、食事との相性も優れています。私たちの酒は吟醸酒のような飲みやすさを持ち合わせていないかもしれませんが、飲み進むにつれ体に馴染み飲み飽きしない酒だと考えています。私たちの造った酒の味わいに共鳴してくださるお客様に一人でも多くめぐり逢えたなら幸いです。

2015年8月吉日 杉井酒造 代表/杜氏

杉井均乃介