杉錦 生酛(生もと)・山廃造り、純米みりん「飛鳥山」 : 生もと・山廃仕込み

生もと・山廃仕込み

生酛・山廃酛・菩提酛仕込みとは?

 日本酒の醸造では酵母菌を大量に増殖させると共に有害な雑菌の繁殖は抑える必要があります。そのために仕込みに使う原料の約一割弱の量の蒸米・米麹・水をまず小さなタンクに仕込み、ここに酵母菌を植え付けて増殖させ酵母と乳酸を高濃度に含んだスターターを造ります。これを大きなタンクに移して追加の蒸米、麹、水を三段に分けて加えて本醗酵を始めます。この本醗酵を始める前の工程を「酛」あるいは「酒母」といいます。

速醸酛(そくじょうもと)

 酛の仕込みにあたり現代では有害な雑菌の繁殖を抑えるために「乳酸」を添加して酛を酸っぱくします。酢飯や酢漬けものが腐りにくいように乳酸を加えて酸っぱくしておくと細菌の繁殖が抑えられますが、酵母菌は酸性にもかなり耐性があるので酵母菌だけが増殖して高い酵母密度の酒母が完成します。この乳酸を加えて育てる酒母を「速醸酒母」といいます。

現代の日本酒醸造では、そのほとんどが「速醸酛」(速醸酒母)といわれる方法で造られています。この方法が最も一般的なので「速醸酛」で造られた酒には特に「速醸酛」の表示はしてありません。速醸酛の造り方は明治時代に純度の高い乳酸が入手できるようになって考案されました。日本酒の歴史の流れのなかでは比較的新しい手法です。

生酛(きもと)

 乳酸が入手できなかった明治時代以前に行われていた酛の方法が「生酛」「菩提酛」です。酛に加える乳酸が無かった時代は、速醸酛より低温に仕込んで雑菌の繁殖を抑えながら自然に乳酸菌が繁殖して乳酸を生産して酸っぱくなるように誘導していました。乳酸菌は自然界に広く生育していて酵母のように糖分に富む環境でよく増殖します。繁殖した乳酸菌は酒母工程の後半に酵母菌が増殖してくると酵母の造るアルコールと自らの造った乳酸によって死滅してしまいます。こうして酵母菌と乳酸を高濃度含んだ酛ができあがります。明治時代初期までは日本酒の酛は全て「生酛」あるいは「菩提酛」で造られていました。

山廃酛(やまはいもと)

 明治時代に生酛の製法を一部簡略化した方法が山廃酛(山おろし廃止酛)です。生酛の製造工程には「山おろし」と呼ばれる工程があります。当時は原料米の精白は低く現代の高精白米と比べ溶けにくいうえに麹菌の力も弱かったと考えられます。そのため低温での生酛仕込みにあたり、原料米を溶かすために仕込みは小さめのたらいのような桶に分けておこない、これを櫂ですりつぶす作業をおこないました。この作業を「山おろし」と呼びます。山おろしは大変に手間のかかる作業です.明治時代になり原料米の精米も多少良くなったり、麹菌の育種も進んだ事なども影響したのだと思いますが、手間の掛かる「山おろし」を省略しても米の溶解が進み乳酸菌と酵母菌の増殖過程も生酛と同じように進んで健全な酒母ができる事がわかりました。この方法を「山おろし廃止酛」略して「山廃酛」と言います。

菩提酛(ぼだいもと)

 生酛造りは江戸時代中頃に灘(兵庫県)で確立した技法です。生酛の原型といわれ室町時代に奈良県の菩提山のふもと正暦寺で使われるようになったと伝わるのが「菩提酛」(「水酛」とも言われる)です。まず飯を溶かした、生酛と比べて濃度の薄い「そやし水」といわれる液に乳酸菌を生やして酸性水をつくり、これを仕込み水として酛を仕込みます。生酛が冬季の低温環境下でないとうまく出来ないのに対し、比較的暖かい時期に造りやすく操作も生酛と比べて簡便な事から広く行われていたようです。江戸時代に生酛を用いた寒造りによる酒質の優良さと安全性が認識されるようになると菩提酛は少数派になりました。昭和初期くらいまでは使う蔵もそこそこあったようですが現代の酒造の教科書からは姿を消してしまいました。菩提酛発祥の地である奈良県では近年復刻製造されていますが、奈良県以外で製造しているのは数社のようです。

酒母と酒の味わい

  生酛・山廃酒母で造った酒は味わいに幅、コクがあり夏の熟成期間を経て秋になると味わいが良くなる(秋あがり)と経験的に言われています。味わいは複雑で深みがあり燗酒に向くとも言われます。一方でこれらの酒母では酵母菌以外に乳酸菌などの細菌も繁殖するのでヨーグルト様の臭いなどのクセが酒に付きやすい一面があります。

 速醸酒母で造った酒は添加した培養酵母を純粋に増殖させやすいので、香りの高い酵母を使った吟醸酒を造るのに向いています。また酵母以外の微生物の増殖は非常に限定的なので、クセが無くさっぱりした味わいの酒造りに向いています。

 速醸酛は生酛・山廃酛と比べて製造の日数、手間が少なく失敗のリスクも少ないうえに、酒質が現代の淡麗な味わいを好む嗜好にも合致した事から現代の酒造りの主流になり生酛・山廃造りは圧倒的に少数派になっています。

 しかし近年日本酒の多様化にともない、その味わいの良さが見直され新たに復活させる蔵が増えています。