純米大吟醸の仕込
毎年、年明け1月は純米大吟醸、純米吟醸を仕込ます。生酛で2本 速醸酒母で40%の出品用純米大吟醸と、50%の純米吟醸を仕込ます。
1本白米600kgくらいの仕込ですが、麹は全て麹蓋で造っています。搾りは全て、酒袋と舟を使い、出品用は吊るしをおこなっています。
米は掛け米を含めて、全て10kgずつ洗います。特に40%の出品用は手洗いにしています。(高性能の洗米機をもっていないので)
製品の火入れは瓶燗火入れという湯煎方式です。以上酒造りでこれ以上手のかけようがない昔からの古典的作業方法を採用しています。
手のかかかる方法を採用するのはうまい酒をつくるための手段のひとつで、それだけ手のかかる方法を採用したからといって、操作が適切でなければ合理化、機械化した方法で造った場合と較べて、よりいい酒ができるとは限らないのですが、吟醸酒の醸造は仕込本数も少ないのでこの方式にこだわってやっています。たくさん造るようになったら、工程の一部はもっと省力する必要が出てくるかと思います。
吟醸酒の製造には、米洗いから、上槽、火入れまでどの工程も重要なのですが、やはり大変なのが”麹”造りです。
吟醸酒の仕込に使う麹は「ツキハゼ」麹と言って特別な造り方をします。普通の麹は見たところ米粒の表面の80%くらいに麹菌が繁殖して白くなっています。
ツキハゼ麹は麹菌が繁殖している面積は40~60%くらいですが、米粒の奥まで麹菌が浸食しています。このタイプの麹は糖分の生産力は高いのですが、米を溶かす力は控えめで、菌の繁殖が少ないと油性の成分が少なくなり、香りが高く味のきれいな吟醸酒ができる事が経験的に知られています。
ツキハゼ麹を造るには、①米を徹底的に洗い、米粒表面のぬめりをとりさる。②洗米時に吸収する水分を限定する。③高温の乾いた蒸気で内部までしかり蒸して蒸し上がりの米粒の表面がべとつかない。蒸米を造るのがまず大事です。
蒸米は通常、麹室の床といわれる広いテーブル状の台の上に薄く広げて、水分を蒸発させ米粒の表面を乾します。麹菌にとっては水分が少なくて繁殖するのに厳しい状況を意図的につくると麹菌は米粒の内部に向かって繁殖し、糖化酵素をたくさんつくります。
そこで吟醸麹をつくるにはまず、米の洗米時間と吸水率を試行しながら決めます。その米を蒸したあと麹室に広げて水分を飛ばす時間と散布する種麹の量もいくつか試してその年の最適条件を決めます。
吟醸麹の作り方は以上のようなポイントがあるのですが、実際の作業のにあたっては、米を蒸すコシキの吸水率や、麹室の広さや乾き具合、地域による空気の乾き具合とか条件が蔵によって異なるので、蔵によって最適解が異なります。また年によって米の性質が異なるので毎年その年の米にあわせて調整が必要です。
そのうえ著名な杜氏さんの仕事のやりかたを勉強すると、杜氏さんによりそれぞれ異なり何がベストか迷いが生じます。
結局、自分の蔵の設備、仕事の進め方に適したやりかたを自分で体得するしかありません。
自分で酒を造るようになってから、静岡県の鑑評会の純米吟醸部門第一位を2回頂きましたが、その時と同じ作業を再現するのではなく、もっといいやり方があるのかもしれないと考えて、他の杜氏さんのやり方も参考にしながら、敢えて別のやり方をいろいろなやり方を試してきました。
でもやればやるほどよく解らないです。今年はうまくいった年のやり方に近い方法を試してみるつもりです。