船しぼりの酒(酒袋しぼり)1
酒造りでは醗酵の終わったモロミを最後に搾って、酒と粕に分離します。この搾る工程は舟と呼ばれる旧式の搾り機と酒袋を使った「舟搾り」と昭和30年代後半に開発された「ヤブタ」と呼ばれる自動化された機械を使う方法の二種類の方法があります。(もう一つ舟搾りを合理化した佐瀬式という機械もあります。)
正式な統計のデータは無いのですが、現在日本で造られている清酒の90%以上は「ヤブタ」で搾られていると思います。
旧式の搾りの方法である「舟搾り」は2000~3000ℓあるお酒のモロミを「酒袋」といわれる枕カバーのような袋に7ℓくらいずつ入れて「舟」と言われる搾り専用の長方体のタンクのなかに積み重ねていきます。酒の入っている袋自体の重さで袋から酒が浸みだしてきますが、最終的には加圧して酒を搾り出します。
モロミ1本を「舟」に乗せるのに二人がかりで3時間から4時間くらいかかります。夕方から圧力をかけ始めて翌日には一度酒袋を組み直し、朝に翌々日の朝に搾りが終了します。
次のモロミを搾るためには搾り終わった酒袋を舟から取り出し2時間ほどかけて袋から酒粕を取り出します。とにかく舟で酒を搾るのは手間と時間と忍耐のいる仕事です。
一方でヤブタ式の搾り機はモロミにポンプをセットすれば、ほぼ自動で搾り機の中にモロミを吸い込んで翌日までに自動的に搾りを終了します。 粕はがしは二人がかりで2時間ほどかかりますが酒袋の粕はがしとくらべ手間がかかりません。
昭和30年代に導入された酒造用機械のうちこのヤブタ式搾り機と蒸米放冷機で酒蔵はだいぶ省力化できました。
実は杉井酒造では吟醸酒、純米酒などモロミの7割弱は舟搾りで搾っています。どうしてヤブタ搾り機があるのに旧式の船でわざわざ手間をかけて酒を搾るのかというと舟搾りのほうメリットがあるからです。次回その訳をお話します。