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生酛と亜硝酸反応

IMG-1585 

 生酛は仕込と同時に乳酸と酵母を添加してアルコール醗酵を始める「速醸酒母」と比べると酒母の中で進行する微生物の活動が複雑で管理が難しくなります。速醸酒母では麹から抽出される糖化酵素による糖化を進めながら、雑菌の侵入はできるだけ防いで、添加した純粋培養酵母によるアルコール醗酵だけが進むように管理します。働いている微生物は酵母だけです。

 一方、生酛・山廃酒母では、まず仕込水に含まれる硝酸還元菌といわれる菌群が生育して、水に含まれる硝酸を還元して亜硝酸を造るという活動がおこります。亜硝酸は微生物、特に酵母の生育を抑える働きをして、仕込み初期の糖分の少ない状態での酵母菌の活動を抑えます。

 その後、麹が働いて糖分が蓄積し始めると乳酸菌の球菌、次に桿菌が生育してIMG-1584乳酸を造ります。

 糖分と酸が十分蓄積した、仕込後二週間くらい経過したところで酵母菌が生育し始めるのが理想的です。現代ではこの時期に純粋培養酵母を添加します。酸と糖分が十分蓄積しないうちに野生の酵母菌が醗酵を始める事を「早湧き」といいます。早湧きした酒母では酵母が生酛の特性であるアルコール耐性が弱かったり、酒母の酸度が低めになり乳酸菌が生き残ったりして、モロミの醗酵がうまくいかない可能性が高くなります。逆に亜硝酸反応がいつまでも消えないと、酵母の増殖が遅れ、その間に糖化が進み過ぎる事により濃糖圧迫という状態になり酵母が活動困難になる「湧き遅れ」という状態になり酒母の完成が遅れてしまいます。

 昨年より亜硝酸がしっかり生成する条件を模索しているのですが、杉井酒造のIMG-1583仕込み水は硝酸還元菌が少ないようです。結果として硝酸還元菌が生育して亜硝酸を生成するまで日数がかかるようです。  数の少ない硝酸還元菌が十分生育して亜硝酸反応を生じるまで日数がかかると、その間に乳酸菌が増殖して酒母は酸性になってきます。酸度が1.0程になると硝酸還元菌群は活動ができなくなり亜硝酸反応はでない事になります。

 以上のように生酛では三種類の異なる微生物がタイミングよく働く必要があり、それを完全に制御するのは難しいです。

 今年の酒母一号は亜硝酸反応は良く出ましたが、なかなか消えなくなり沸き遅れの酒母になりました。酵母を追加で入れたり、既に醗酵を始めた第二号酒母の泡を入れたりしてやっと沸き付かせる事ができました。

 この第一号の酒母で造った酒は「きんの介」と「生酛初搾り」として11月末、12月初旬に発売予定です。

 

 

 

               

投稿日時:2020年10月14日(水)│
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