生もと・山廃造りはなぜ少数派になったのか?4
前回、生酛・山廃造りはしっかりした技術が無いと速醸酒母と比べてモロミの醗酵に問題のおこる可能性が高くなると書きました。
前回書いた優良な酒母の条件の②として添加した優良酵母を必要量(2×10の8乗/ml)含むという事があります。
速醸もとでは酒母を仕込む時に純粋培養した酵母を加えます。原料の麹には野生酵母が少し存在するようですが、添加する純粋培養酵母の数が圧倒的に多いのでこの野生酵母が主に繁殖するリスクはほとんどありません。添加した酵母によるモロミの醗酵が確実にできます。
生もと・山廃酒母では明治時代初期までは酵母は無添加で、蔵つきの酵母で自然に醗酵を立ち上げていました。しかし現代の酒造りでは酵母無添加で生酛・山廃酒母を造る蔵は圧倒的に少なく酒母工程の中頃に純粋培養酵母を添加するのが一般的です。
教科書によれば、生酛・山廃酒母の前半の工程ではまず殺菌作用のある亜硝酸が自然に生成され、その後生成する高濃度の糖による浸透圧と酸の総合作用で野生酵母は酒母育成の前半に完全に淘汰され、そのタイミングで添加する純粋培養酵母がその後増殖する事により添加酵母が寡占した酒母になります。
教科書的にはそうなのですが、実際には純粋培養酵母を添加する前の10日から14日ほどの間に自然に野生酵母、あるいは蔵内で使用している培養酵母がある程度増殖している可能性が高いです。そもそも生酛は酵母無添加で育てていたわけですから、酵母がいなくては酒母はいつまで経っても完成しません。
現在では酒蔵の中は使っている純粋培養酵母が圧倒的に多数を占めているので、酵母無添加で育てた生酛・山廃酒母でも蔵内で使っている酵母が湧いてくる可能が高いですが、何か汚染源になるようなものがあると野生酵母が湧いてくる可能性があります。
望んだ吟醸酵母で吟醸酒を造りたい場合は速醸酒母を使うほうが生酛・山廃酒母を使うより酵母純度を保つ上でかなり有利だと思います。これが吟醸造りが酒質向上の王道である現在の酒造りで生酛・山廃が敬遠される理由の一つだと思います。
次回は良い酒母の条件の③として有害菌の存在が無いという点について書きます。