生酛・山廃造りは何故少数派になったか?5
良い酒母の条件として③モロミの醗酵に有害な菌を含まない事があります。
ここで問題にするのは望まない種類の酵母ではなくアルコールや酸を含む清酒モロミでも繁殖してしまう乳酸菌の事です。
現代の酒造りでは速醸酒母ではこのような有害菌を含む酒母はまずできません。蔵内は清潔で、使用するタンク、櫂棒、暖気だる(酒母を温める湯たんぽ)など皆きれいに洗浄できるので、混入する細菌は少数です。酒母の最初から培養酵母を多数添加するのでこれが他の微生物を圧倒して雑菌に増殖する隙を与えないようです。
ところが、生もと・山廃酒母では前半は有害菌だらけになります。有害菌という言い方は適切ではないかもしれませんが、乳酸菌だらけになります。これらの菌は生酛・山廃酒母を育てるのに有用な菌ですが、酒母の完成時に生き残っていれば有害菌になります。生酛・山廃酒母はこれらの有害菌を育てないとできないのです。
これらの乳酸菌は酒母の完成時にアルコールが13%くらいになり酸度が10程度になると生き残る事ができずに消滅してしまいます。
ところがアルコールが低かったり、酸度が低い酒母では乳酸菌が死滅せずに生き残る事があります。有害菌を含む酒母になってしまう可能性が生酛・山廃酒母ではあるのです。
乳酸菌が生き残っている酒母で仕込をすると、仕込の初期には異変はありませんが、生き残った乳酸菌がまた増殖を始めて酸の多い酒ができます。またアルコール発酵が弱くなってしまいます。
安全醸造の為には速醸酒母のほうが、生酛・山廃より確かだといえます。 (実は終戦直後に全国的な大腐造が起こったとき、問題の起こったモロミは速醸造りがほとんどで生酛・山廃酒母のほうが問題がおきなかったという事があったそうです。この点についてはまた別の機会に書きます。)