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天然糀と古い酵母の酒

北高生2016.2 地元の藤枝北高校の先生と生徒たちが取り組んでいる食品開発の一環として「地元で採取した天然の麹菌を使って酒を醸造する。」という企画に取り組んでいます。

 現代の酒造りでは全国に6社ほどある種麹屋さんが販売する優秀な性質の種麹を使うのが普通です。静岡の山間部で採取したという種麹を使う事に常識では特にメリットはありません。しかしこの種麹は安全性テストで問題はなく、酒を造れるレベルの糖化力があることがわかり、使ってみる事にしました。

 せっかく変わった種麹を使うので、酵母も変わったものを使う事にしました。秋田今野もやしさんが”日本最古の酵母”というふれこみで販売している酵母の一つ「サッカロマイセス・エド]という明治時代に分離された古い酵母がそれです。

 酒造りに使われる”酵母”と”麹菌”の二つの微生物はより良い品質、味わいと経済性を追求して選抜を重ねてきました。現在一般に使われている純粋培養菌はたいへん優秀で馬でいえばサラブレッドです。(遺伝子組み換えした菌については制約があり、実際の日本酒醸造では使われていません。)

 酵母菌はアルコール醗酵力が強く、吟醸香の生成が多く、酸の生成が少ないものが選ばれてきました。日本醸造協会の酵母でいえば、協会6号、7号、9号が大変優秀だったので、それより若い番号の酵母は使われなくなってしまいました。

 麹菌も糖化力の弱いものは醸造の安全性に問題がありますし、経済性、吟醸香の生成にもマイナスになるので、種麹屋さんが選抜を重ねた優秀な菌が販売されています。

 わざわざ明治時代の菌や、その辺りで取ってきた麹菌のうち比較的良好なものを使って酒を造ってみるというのは、常識的には馬鹿げた企てになります。当然現在の酒造りで一般的に追及されている吟醸酒的な意味でのよい酒の醸造は見込めません。

 それでもやってみる事にしたのは違う意味で”おもしろい”、”なつかしい”味の酒ができないかという期待からです。クラッシク音楽では古楽器での演奏というのがあります。現代のアコーステック楽器はよりよい音を追求して完成されているわけですが、わざわざ華やかな音が出て、耐久性に優れたスチール絃の代わりに羊の腸か何かでできたガット絃(よく知りません)を使ったり、昔の構造のチェンバロを使ったりするのは、音の大きさや、華やかさでは現代の楽器にかなわなくても、やさしい、やわらかな、味わい深い音がでるからだと思います。

 酒造りでも昔の菌や自然の菌を使った酒造りというのはおもしろいと思います。今回の酒は山廃酒母にしました。その場合、酵母無添加として”家付き酵母”で湧きつけるという選択肢もありましたが、経験的に酵母無添加では蔵内で使っている”純粋培養酵母”が主体に湧くようなので、サッカロマイセス・エドを添加しました。

 麹は静岡の酒米「誉富士」を使い、掛米は「ひとめぼれ」です。あまり個性的な味になりすぎないよう精米はどちらも70%まで磨きました。

 実際の醸造では心配したアルコール発酵力はまずまずで、モロミののアルコール濃度は18.9%、日本酒度は+6まで醗酵しました。酸はモロミの末期までじわじわ増えて原酒で3.0になりました。アミノ酸度は原酒で2.0ほどです。

 この酒は「杉錦 天然麹・古式仕込」というタイトルで6月末に発売予定です。

(同じ酒を、種麹を採取した静岡県水窪町では「みさくぼ」という地域プライベートブランドで発売します。 また別に藤枝北高校企画の地域PBとして「米の花を紡ぐ物語」とう天然麹と協会701号酵母で造った酒を地元で発売しています。)

投稿日時:2016年5月15日(日)│