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山廃純米酒に挑戦

 - 山廃酒母とは -

yamahai_jyun2 全国的に、山廃酒母や生もとで造った酒が少しずつ増えているようです。酒造りの最初の工程として、酵母を増殖させる酒母(もと)は現在ほとんど速醸酒母といって仕込みの時、乳酸を添加することにより、液を酸性にして雑菌の繁殖を抑えておき、その間に同じく添加した酵母を増殖させます。

 この方法は、安全で操作が比較的簡単で、確実に目的とする酵母を繁殖させることができ、出来上がった酒は、クセがなくすっきりした風味であることから、現在の酒造りでは一番広く採用されているほか、吟醸酒の製造に適していると言えます。

 一方、生もと系の酒母では、仕込み時に乳酸の添加はおこなわず、自然に生えてくる乳酸菌の造る乳酸で酸性を作り出し、その後酵母を添加します。速醸酒母が2週間で出来上がるのにたいし1ヶ月も時間がかかり操作も大変になります。できた酒は、深い酸味に富み、味に幅があり、秋あがりすると言われています。山廃酒母は、生もと酒母製造で行われる「山おろし」という米をすり潰す操作を廃し簡略化した方法です。

 - 山廃酒母に挑戦する理由 -

 酒造りの教科書には、現在はあまり使われなくなっているにもかかわらず、山廃酒母の製造方法の解説が詳しく載っているのが常です。

 そして硝酸還元菌により生じた亜硝酸により、野生酵母の増殖を抑えながら、次に生えてくる乳酸菌で酸性の環境を作り出しその後、目的とする酵母を増殖させるこの技法が、近代化学や微生物学のない時代に、先人たちによって生み出された秀逸な技術であるとの解説が書いてあります。それらを読むと酒造りに携わる者として、ぜひ一度やってみたくなります。

 また、蔵元として酒造りに関わるようになって以来、品質向上のため、全ての商品について精白歩合を上げ、発酵温度を低くし、製品を冷蔵庫で壜貯蔵にするなど、近代的な吟醸酒造りの基本に従って努力をしてきたつもりですが、普通の純米酒や本醸造酒のように強い吟醸香を期待できない酒については、別の切り口でおいしさを追求できないかという思いがありました。

 - 山廃酒母を造ってみました -

 実際の山廃酒母造りですが、昨年練習のために酒造りの終わった5月に一本造ってみました。この酒母は試作している米焼酎のもろみに使ってみましたが、発酵は良好でした。

 この時の経験から、5度~8度くらいが適温とされる山廃酒母の仕込み温度ですが、低すぎると米の溶けが悪くなる事。亜硝酸をしっかり効かそうと考えて、硝酸カリを添加しすぎると亜硝酸反応が強すぎていつまでも消えず、添加酵母の繁殖が遅れる事。また同じく乳酸菌の繁殖も抑えられて、酸がなかなか出てこないという経験をしました。今回は前回の経験を踏まえて仕込み温度、亜硝酸反応を調節してほぼ教科書にそった経過をたどる事ができました。

 仕込み後、数日たった酒母は、麹の酵素で米が溶けて生じる甘味と乳酸の酸味で甘酸っぱくておいしい味がします。山廃酒母では速醸酒母とくらべ、この時、旨みとコクがあって特においしいです。酵母は協会7号の泡無しを添加しました。

 - 山廃酒母を使った純米酒のモロミ -

 この山廃酒母を使って、55%精白の滋賀玉栄(たまさかえ)という米で、純米酒を仕込みました。山廃酒母で育った酵母菌は、細胞膜を作っているリン脂質が速醸酒母と異なり、もろみの後半で高いアルコールに耐えてよく発酵するといいます。

 今回の純米酒では、従来の静岡型の造りが念頭にあって留めの掛米を3時間ほど硬化させてから仕込んだので、アルコールが17.5度くらいで米の溶けがほぼ止まってしまい、山廃モロミでの終盤での発酵の強さはよくわかりませんでした。

 山廃酒母は、前半で硝酸還元菌や乳酸菌などを繁殖させるためか、表現が悪いですが少し腐敗したような臭いがします。この臭いと酵母のつくる芳香が混ざって、過熟して腐りかけた果物を思わせる香りがしています。この香りは、モロミになってからも少し感じられました。また搾った直後の酒にも、わずかですが感じられました。

 - 山廃純米を製品にしました -

yamahaijyun2007 出来上がった山廃純米の原酒ですが、日本酒度は+5くらい、酸は2.0くらいの辛口すっきり型で、深い酸味のある酒になりました。

 粕歩合は53%と米は溶けなかったので、製品化にあたって活性炭は完全に無添加で、素ろ過のみ実施して、割り水後一回火入れの壜貯蔵にしました。製品の酸度は1.7くらいです。モロミでは感じられた山廃のクセは、製品になると殆どわからなくなりました。

 お客様に試飲して頂くと、だいたい「山廃っぽくないね」という評価です。個人的には、深い酸味は山廃でなければ出ない味ではないかと感じています。エキス分が少なくで酸味の効いた味は、こってりとした生原酒より、夏に飲む酒としても適性があると思います。

 来年以降も、従来の商品を少しずつ山廃化していくつもりです。なおこの山廃純米は小売価格、税込み2,520円/1.8Lで販売を始めました。

投稿日時:2003年6月30日(月)│
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